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思い出すシーンは古い映画のように静かで。 でも、鮮やかにカラーだ。 シネマ 「そろそろ届き始めてるわよ」 立ち寄った事務所で帰り際、葉月はマネージャーに、こう声を掛けられた。 「・・・・・・なにが?」 「ほんっとに、そういうのに無関心ねえ。―――誕生日プレゼントよ、あなたの」 「・・・・・・・・・・・・ああ」 答えを教えられてもやはり葉月は無表情で、指で示された片隅のダンボールに軽く目を移しただけで気のない返事をした。 一方的な好意。それは有難いことなのかもしれないが、どうしても面倒くささが付き纏う。 ―――天然記念物。というよりもむしろ珍獣。 好意だけならまだしも、そこには妬みや僻みといった負の感情も確かに存在していて。葉月はこちらの方に敏感だった。 「一応こちらできちんとチェックしてるし。・・・・・・どうする?今日辺り、一度持って帰る?」 「・・・・・・・・・・・・いや、いい」 特にこの後の予定があるわけではない。毎年かなりの数のプレゼントが届き、貰ったものを開けるのは義務だと諭されて機械的にそれをこなす葉月にしてみれば、一度その作業をした方が楽なのだろうが。 この所、頭を占領している考え事が気になってとてもそんな気にならない。 「まあ、後でまとめて送ってあげるけど。あと一週間、・・・・・・この調子だと去年の倍は届くわよ」 マネージャーの嬉しそうな顔に適当に相槌を打って、葉月は事務所を後にした。 賑わう街。 ビルを出て、歩道に一歩足を踏み出そうとして、瞬間立ち止まる。 まるで見知らぬ場所のような錯覚。 思い出すシーンとは逆に、そこは色のない世界。 クラクション。チラシを配る人の愛想のいい声。 ―――音だけは必要以上に溢れている事が葉月を不快にさせるけれど。 彼女に無数の柔らかな光が降り注ぐ。 きょとんとした表情が、眩しくて。 一生懸命、伝わりますようにと願いを込めて。 ―――交わした約束を。 気になることといえば、今は一つだけ。 雑踏の中に飛び込んでいくことが何故か苦痛で、葉月は小さな溜息をついた。 ********** 日差しが眩しい。 土曜の午後、思った以上に早く事務所から開放された葉月は、この後をどう過ごそうかと思案した。 真っ先に浮かんだ顔に連絡をしてみようかと、携帯に手を伸ばしかけて、思いとどまる。 『今日はこれから買い物に行くんだ!』 『へえ、冬物の服でも買うのか?』 『んー、そんなところかなっ』 『・・・・・・気になる言い方だな、それ』 『えへへ、内緒ー』 そんな会話を確かにした。その時の彼女の笑顔を思い出して苦笑する。 彼女を考えないことなど、ない。 そして彼女がいるだけで、モノクロームの世界に色がつくのだ。 (昼寝でも、するか) 葉月は空を確かめてから、公園に向かうことにした。 ********** 日暮れまでまだ随分とある。今日のこの天気ならば、気持ち良く昼寝が出来るに違いない。 公園の芝生に、それほど人の姿が見られないことに安堵しながら、自然といつもの場所―――彼女と来たときに弁当を広げる場所―――へと足を向ける。 今までずっと一人で来ていた公園も、彼女と来ることが多くなって。いつの間にか、彼女がいないことに、こんなにも違和感を感じている。 気になることはといえば、彼女のことだけ。 自分がしているバイトのせいで、この公園でも彼女に迷惑をかけたことがある。 そんな時、彼女は笑って気にしてないよ、と言うけれど。 一番大切にしたいものを上手に守れることが、自分には出来るのだろうか。 ―――ここの所頭を占めているのは、隠しようのない不安。・・・・・・それは依存、なのだろう。 彼女なしでは色を無くす世界。 幼い頃のシーン。 葉月が告げた言葉の意味を理解すると。 ゆっくりと。 幼い彼女は、その瞳に大きな涙の粒を浮かべた。 乱反射。 その涙がとてもキレイで、ずっと、忘れられずに。 その時心から願ったのだ。 ―――神様、もしもいるのならどうか。 彼女を迎えに来られますように。それまでこの子の涙を、悲しいことから守ってください。 「ニャアー」 寝転がって葉の間からこぼれる光を見つめていた葉月に、一匹の猫が近寄ってきた。 身を起こし、そっと手を伸ばす。 「・・・・・・おまえ、ひとりか?」 まだ小さな仔猫。葉月の問いに、仔猫はもう一つ鳴き声をあげて、さらに近寄ってくる。 見上げた葉月が眩しかったのだろう、目を細めて、伸ばした手に視線を戻して匂いをかいでいる。 「はは、人懐っこいな。―――こっち来い。くすぐってやる」 木々の合間から差し込む、細い太陽の雫が仔猫にも降り注ぐ。 懐かしい情景がクロスして、葉月は知らずに笑みをこぼした。 抵抗しない事を確かめて、そっと猫を抱きかかえる。 サワサワと風に揺れる木の葉の音。仔猫は全く警戒心を見せずに、甘えたように喉元を葉月の手に預けきって心地良さそうに鳴らしている。 思い出すシーン。 彼女と自分と、あの空間を敷き詰めていた無数のカラー。 ―――ステンドグラス。 大粒の涙。 「ニャア」 仔猫はもう一度鳴いて、葉月の手をぺろぺろと舐めはじめた。時折縋るような視線を向けて。 「・・・・・・お前、腹減ってるのか?」 「ニャー」 今日は体育館裏ではないので、残念ながら餌になるようなものは持っていない。 どうしようかと、何気なく視線を巡らせた所で、こちらに近づいてくる人影に気が付いた。 ―――思わぬ人、いや、始終思いを馳せている、彼女。 「珪くん・・・・・・。やっぱり珪くんだ」 彼女は驚いたように、そして嬉しそうに駆けてきて、満面の笑みを浮かべる。 葉月はといえば、全く予想をしていない偶然にやはり驚きを隠せず。 「どうして、ここに・・・・・・」 「買い物の帰り道、天気が良かったからちょっと寄り道しようかと思って。そうしたらいつもの場所に珪くんがいるでしょう。―――びっくりしたよ」 「俺も・・・・・・驚いた・・・・・・」 座ったまま、見上げた彼女が眩しい。―――光に縁取られた彼女。 「珪くん、また猫ナンパしてる。ふふ、可愛いねー」 「ああ、なんだか腹減ってるみたいで」 戻りきらない現実感を抱え込み、上の空で葉月は答える。 鮮やかな、カラー。 「あ、ちょうど良かったよ!新作の猫缶見つけて買ってきたの」 体育館裏の猫にあげようと思って、と彼女は抱えていた荷物からキャットフードを取り出した。 蓋を開けて、近くに置く。 すると仔猫は嬉しそうに葉月のひざの上から抜け出して、彼女を見上げてから一鳴きした。 「どうぞ召し上がれ。・・・・・・このコ、お行儀いいんだねー」 「人懐こいしな」 その時彼女の持つ袋の中から、紺色のリボンが見えた。 葉月は期待を祈りに変えて、知らぬ振りをして問いかける。 「なあ、・・・・・・今日、何買ったんだ?」 「え?―――ええと、猫缶とか・・・・・・いろいろ」 「色々って、・・・・・・俺に言えないような物、買ってたのか・・・・・・?」 「そそ、そういう訳じゃないけど。―――でも、今は内緒っ!」 慌てる彼女が愛しくて、思わず抱きしめたくなる衝動を堪える。 恥ずかしそうにうつむく彼女に、無数のひかり。 最後の日、泣きじゃくる彼女に約束をした。 守ることが出来るのか、未だに自信は無いけれど、それでも傍にいたいと思う。 神様はいるのだろうか。幼いあの時の願いを聞き届けてくれていたのか。 彼女がいる世界は、こんなにも色鮮やかで。 彼女がいるだけで、こんなにも眩しい。 ********** まだ葉月は知らなかった。 彼女もまた、葉月がいるだけで世界が色鮮やかになることを。 「なあ、・・・・・・来週の土曜、俺仕事なんだけど。―――夜、飯でも食わないか?」 紺色のリボンに背中を押され、葉月は最愛の人に問いかける。 彼女はとても綺麗な笑顔を浮かべて―――喜んで、と言った。 「私から誘いたかったのに」 傍らの仔猫が、食事を終えてもう一度鳴いた。ご馳走様、の挨拶に、二人で顔を合わせて笑う。 そして葉月は思うのだ。 新しく描かれていくシーンもやはり古い映画のように静かで。 それでも、眩しいほど鮮やかにカラーであるだろうと。 Fin
がちゃさんのフリーイラストに萌え萌えで、思わず書いてしまいました…。 仔猫と戯れる王子。学校かしら、とかお一人かしら?とか。 色々妄想は膨らみますが(笑)、誕生日記念なので、それを微妙に織り交ぜつつ。 がちゃさんのサイト名の「仔猫」を強調したかった、と言う意気込みの溢れた拙作です; 素敵なイラストの雰囲気を壊していないといいのですが…。どきどき。 |