SWEET SPEL




「小波」



  恋を自覚した頃から、こいつを名前で呼ぶようになった。
 そして、付き合い始めてからは、もっと心を込めて呼べるようにもなった。
 なのに、こいつと来たら、いまだに俺を名前で呼んではくれない。
 それが、俺の心の中に引っかかっている。
 ずっと、ずっと・・・・・。



 私はずっと、私の彼を名前で呼びたい。
 けど、けどね。
 他の女の子が名前で呼んでるのをみると、どうしても、名前を呼べなくなる。
 なので、今日も返事をしようとして・・・・。 



「葉月。なんだい?」



 こいつはやっぱり名前を呼ばない。
 幼い頃には、ふたりとも、名前を読んでいたのに。
 でも、それを思い出したのに、まだ、呼んではくれない。
 彼女、なのにな。
 小波は、気にならないのだろうか?
 俺のことをそんなに想っていないのではないのだろうか。
 そんなことを考えてしまうのは、いけないことは分かっている。
 けれど、どうしてもそんなことを考えてしまっているのである。



 葉月は、気にしてないのかな?
 でも、私は呼びたいの。
 君の名前を。
 なのに、周りの子が君の名前を呼ぶ姿に嫉妬して、どうしても、それを押さえ込んでしまう。



「お前、いつまで俺の名前を呼ばないんだ?」
「何で?」
「俺ばかりが、お前を好きな気がする」
「どうして名前を呼ばないだけで、そうなるんだ?」
「お前の声で俺の名前を呼んで欲しい・・・。嫌か?」
「ヤ・・・ではないけど。でも・・・・・」
「でもなんだ?」



 声を出せない。
 出てくる言葉が恐い。
 俺を恐がらせることが出来るのは、こいつだけだ。
 それくらい、俺の中は溢れていて・・・。
 俺の中は、空っぽで・・・・。
 だから、呼んで欲しいんだ。
 お前から、俺の名を。



言葉が出せない。
体がすくむ。
私を、恐がらせることができるのは、この人だけ。
それを、前から自覚してる。
私は彼が居ないと空っぽになる。
彼が側にいると、満たされている。
それを伝えるように・・・・。
君の名前を呼びたいのに・・・・・。



「葉月。私、他の人が君の名前を呼ぶのは嫌なんだよ。だからね、他の人が呼ぶ呼び方をしたくないの」
「うん・・・」
「だから、どう呼んでいいか分からなかった」
「そうか・・・・・」
「あのね、私、君の名前を呼びたいの」
「・・・・・・・・・」
「そんな時、必ず君を呼ぶほかの人の声が聴こえて・・・・・・。
・・・・・・・・呼びたいのに、呼べないの。不安にさせるよね、ゴメン」



 お前がそういう理由を分かる気がした。
 俺も、そんな気になったこと・・・・・。
 あるから。
 でも、それを知られたくなくて。
 隠し続けてたけど。
 まさか、それでお前が悩んでたのは気付いてやれなかった。 



「気にするな。俺もそういうこと・・・・・。あったから」
「え?」
「俺もお前が名前を呼ばれてた時、そんな気になったこと・・・、ある」
「うそっ!」
「ウソじゃない。だけど、お前を名前で呼びたいと思ったから、その気持ちが強かったから、こうやって呼べる」
「そうなんだ。・・・・・・私と一緒のことで悩んでたんだね」
「そうだな」



それを聞いたとき。
君は私を、壊してしまった。
積み上げてきた、隠してきた私を・・・・・。
いとも簡単に、紐解いていってしまう。
私が出来ないと思ったことでも、君がそこにいるだけで、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
出来そうな気がしてくる。



「・・・・・・・・・・、・・く・」
「?」
「けい・・・・・くん」
「?!」
「人前では、まだ無理だけど。こうやって二人きりなら・・・。
・・・なんとか呼べそうだよ・・・。ゴメンね。不安にさせて」
「・・・・・・・そうか」
「うん・・・。ごめんね。本当に不安にさせたね」
「気に・・・してくれて・・・、サンキュ、な」



 真っ赤になったお前を、あやすように抱きしめた。
 俺の赤くなった顔を見られたくないと思ったから。
 だけど、嬉しくて。
 自然と笑みがこぼれてくる。
 こんな気持ちをくれるのは、世界で1人だけなんだぞ。
 世界でお前1人だけなんだ。



・・・・・・・呼べた。
そう思って君を見上げる。
その先には。
凄く嬉しそうな顔をしている。
幸せそうな顔をしている君がいる。
どうしよう・・・・。
ただ、君の名前を呼んだだけなのに・・・・・。
こんなに、私を満たして・・・・・。
私の頭にハンマーを落としそうな、それくらい衝撃的な嬉しそうな顔。
ドキドキする。
綺麗な素敵な表情。
どうしよう・・・・・・・。
私、こわれそう・・・・・・・。
幸せすぎて。



「俺・・・・・・・・。幸せすぎて、壊れそう・・・」
「え?」
「お前に名前を呼ばれただけで、壊れそうだ」
「えぇっ!大丈夫?じゃあ、呼ぶのやめようか?」
「それは・・・。嫌だ。ものすごく、いやだ」
「うん・・・」
「だから、人前で呼ばなくていいから、こうやって二人きりのときに呼んでくれないか。小波」
「・・・・・・・・・・分かった」
「やくそく・・・。な」
「約束、だね」



そう言うと、また、抱きしめて・・・。
そして、胸の中のいとしい人に、名前を送るんだ。




「小波・・・。俺、お前が好きだよ。愛してる」
「私も・・・・。け、珪くんが好き」
「よかった・・・」
「うん・・・」



そうやって、恋人達は甘い言葉を相手だけに落としていくのであった。




Fin





降野粉雪さまより、フリー作品を頂いてまいりましたv
「卒業してからかなりの時間が経っている二人」という設定の素敵なお話。
葛藤と願いと。…そんな狭間で揺れる主人公ちゃんが可愛くて。
そして、王子の暖かな愛情に、もうメロメロですvv
素敵な作品、本当に有難うございました!!

降野さんのサイトへは、サンクス!ページよりどうぞ。