フォーカス




 私立はばたき学園の3年生。
 撮影は大体、火曜と木曜。
 時間は不規則。
 誕生日は10月16日。
 ちなみに今年は土曜日。

 ・・・・・・結構レアな情報も、とある筋から入手してる。



*****



 雑誌の最新刊にあたしはまた彼を見つける。
 本当に惰性みたいな感じで、手にとってレジに向かうけど。
 ―――その途中で、知った顔を見つけて思わず話しかける。
 いわば同士。あんまり久しぶりなんで名前は忘れた。

「ええと、あの、・・・・・・そこのキミ」

 自分で声に出して非常にがっかりした。―――なんだい、その気の利かないナンパみたいなのは。
 これがあたしがおじさんで、相手が女子高生だったりしたら大問題だけど。実際のところあたしの方がとりあえず女子高生で、相手は小学生。全くもって問題ナッシング。
 少年はと言えば、見上げた視線の先、あたしと目が合ってふわりと笑った。少し生意気そうな表情は、確か半年とかその位ぶりで前よりも大人っぽくなったみたいで。成長著しい時期の彼は、公言通り、イイ男に向かってまっしぐらのようだ。

「あ、おねーさん。・・・・・・すっごい久しぶりじゃん。まあだ追っかけてんのか?」
「そういう少年こそ。・・・・・・名前なんだっけ?」
「尽。相変わらずひどいなあ。―――俺は覚えてるよ」

 尽くんとやらは、あたしが手にしてる雑誌が目に留まったのだろう。表紙からして葉月珪のコレをみて、相変わらずだなあと憎まれ口を叩く。そういう彼こそ、立ち読みしてるのはあたしが持ってるのと同じ奴で。お互いに指摘しあって笑う。

「今日はランドセルじゃないんだね」
「そういうおねーさんこそ。―――追っかけにスカートは邪道じゃなかったの?」

 葉月珪というモデルが雑誌を主に活躍しだしてからもう数年。多分あたしは初期の頃からのファンだと自負してる。年のころも同じで、それこそ彼が媒体の中で成長をしていく様子を一緒に感じて、自覚はないけどおんなじ様にあたしも少しずつ大人になって。
 あどけなさが抜けて精悍な顔つきになって、どちらかと言うと中性的でキレイな『男の子』だった彼は、今では背も高くて逞しい『男の人』だ。
 それこそ今ではキャーキャー騒がれているけど、はじめの頃はそんなでもなくて。それでもあたしは彼の表情が気になって、随分長いことファンを辞められないでいた。

 尽くんとは、もうだいぶ前、葉月珪が公開の撮影をどっかの公園でしていた時に出会ったのだ。
 追っかけ、と少年は言うけど、節操のないことはあたしはしない。プライベートはプライベート。住んでいる場所が近いからか、本当に時々街で偶然見かける、なんてこともあるんだけど、そういう時は別に追いかけたりとか、話しかけたりとか、そういうことはプライドに賭けてしない。あくまでも、追っかけと言う行為を許されるときだけ、楽しませてもらっているのだ。
 だって。
 彼はビスクドールのように。何を考えているのか伝わってこなくて。
 カッコイイとかそんなことよりも。

 すごく、心配で。

 その公開の撮影とか、実際に行ってみてもっと不安になった。
 カメラマンとかスタッフとかに言われて俯いたり見上げたり。視線を遠くに泳がせてた葉月珪と一瞬だけ目が合った気がして嬉しくなったのに。そんなのはあたしの気のせいで。
 それどころか、彼は―――何にも、見ていなかった。
 遠くのタワー見上げるフリ。建設中の観覧車、見つめるフリ。

 どうしてそんな。
 表情をなくしたピエロみたいに。
 何があったの。そんなに辛いことがあったの。





 撮影現場、あたし位とかもうすこし大人のオネエサマとかに混ざって、尽くんを見かけたのはそんな時で、ほんとにフツーにびっくりしてあたしの方から思わず声をかけた。

「おねーさん、声のかけ方変わってないね。・・・・・・オヤジのナンパみたいな奴」
「もう、うるさいなあ。―――それよりもどうよ、いい男チェックは。まだしてるの?」
「そりゃあね。でも、葉月の追っかけはとりあえず一段落」
「へええええ。なんでまた」

 色々とね、と尽くんは曖昧に言葉を濁して、持っていた雑誌に視線を落とした。

「おねーさんは?スカートは今日だけ?」

 たびたび会った追っかけ現場で、いつもジーンズとか色気のないパンツ姿で顔を合わすあたしに、スカートの方が可愛く見えていいんじゃない?と生意気なことを言ったので、こう答えたことがあったのだ。
『別に葉月珪の目に留まろうとか思ってないから』
 すると尽くんはきょとんとした顔をして、じゃあ何のために追っかけしてるんだ?と尤もな質問をした。
『どうしても気になって気持ち悪いから。答えが出るまで追い掛け回すことにしたの』
 何が、とは言わなかったけれど。そのあたしの答え方がとっても気に入ったらしく。それからというもの、現場で顔をあわせると、何でそんなレアな情報を!っていう位の葉月珪ネタをこっそり教えてくれたりしたのだ。

「ああ。―――あたしの方も追っかけは一段落かな」
「・・・・・・でも雑誌は買うんだ」
「もうこれはね、惰性みたいなモンよ。―――そういう少年こそ、きちんとチェックはしてるんだー」
「お互い、染み付いた習性はなかなか抜けないねえ」

 尽くんも立ち読みしていた雑誌、結局は買うらしくあたしと一緒にレジに向かう。

 二人の手には葉月珪が相変わらず無表情で。
 でも、やっぱり今までの彼とは違う。







 本屋を出て、ショッピングモールの一階の吹き抜けのスペースの隅っこのベンチが視界に入って。
 なんとなくこのまま別れるのが勿体無かったから、尽少年をお茶に誘った。

「何がいい?なんでも奢っちゃうよー」
「それでは、そこのコーラで。・・・・・・て、自販機だもんなあ」
「小学生が贅沢言うな」

 相変わらずの生意気な口調は決して不快なものじゃないんだけど。礼儀としてこっちも切り返す。
 あたしはコーラと自分用にコーヒー買って、彼の隣に腰掛けた。
 尽くんはちゃんとお行儀良くお礼を言ってくれて、プルタブを引っ張る。
 結構いい音がして。この少年と葉月珪のこと話すの、結構楽しかったな、と思う。

「なんでおねーさんのおっかけ一段落なんだ?・・・・・・って訊いてもいい?」

 しばらく人の流れをぼけーっと見てたあたしに、尽くんは小さな声で尋ねた。おんなじ様に正面向いて人の流れボケーっとみつめたまんま。

「気持ち悪いの無くなったから、だねえ」
「答え出たんだ―――っていうか、何が気になってたの?」
「・・・・・・尽くん小学生のくせに生意気だから聞かなくても分かるんじゃないのかなあ」
「生意気って・・・・・・ちょっと要領がいい、ぐらいにしておいてよ、せめて」

 情けない顔してこっち見て、赤い缶を額にあてて。その視線が、結構イイ男予備軍って感じで思わず絶句する。さすがチェックを欠かさない男だ、将来が楽しみでもあり、不安でもあり。

「なんか葉月珪って、すごく心配で。生きてる気がしない、・・・・・・っていうか。生きようとしてない、みたいな。もちろんカッコイイし、無表情でクールなところが売りなんだろうけど」

 尽くんは、じっと聞いている。あたしの下手な話、一生懸命。考えてみればこんなこと誰かに話したの初めてで、仲の良い友人達じゃなくてそれが尽くんだっていうことがなんか不思議だ。

「みんながこの無愛想なところがイイんだ、って言ってても、あたしなんか怖くて。この人大丈夫かな、死んだりしないかな、って大袈裟だけどその位心配で」
「・・・・・・ふうん、そっか」
「もちろん、きっとそんなの雑誌の中だけだって思ってたけど、やっぱり気になって追っかけしてたんだよね」

 吹き抜けのホール。見上げた遠くの天井には、どこかの店で宣伝用に配られていたのだろう、風船が引っかかっている。

「―――でも、このごろの葉月珪、無表情を作ってる感じがするよね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・さすがおねーさんだなあ」
「あ、やっぱり尽くんもチェックしてたか。―――だからね、あたしはもういいのさ」

 ビスクドール。血が通い始めて、生身の人間になる。ピノキオみたいに、ブリキの人形みたいに。
 本当に心配だった。彼を取り巻くあらゆるものに懇願してでも、彼を助けて欲しいと。
 だから、何も見ていなかった彼の目が確かに色を帯びてきたことに気付いた時に、ああ、これでやっと普通に葉月珪のファンでいられるなと思ったのだ。

「楽しかったし。―――青春時代のいい思い出かなあ」

 もう、雑誌とか、ネットとか、そういうので彼を応援できればいい。生身の彼を気にする必要は無いんだ。
 コーヒーはもう残りわずかで、ぐい、と一息に飲み干す。
 風船は手を離れても、確かにそこにある。―――届かなくたっていい。あたしは。





「それより。・・・・・・結局尽くんはどうなのさ」
「うーん、言うとつまんないから、内緒」

 結構な情熱でもって、追っかけしてたみたいに思えたのに。なんだか、妙にレアな情報知ってたり。

「―――考えてみたら、すっごい変だよね。キミ」
「何でだよー」

 この少年と葉月珪のこと話すの、結構楽しかったな。
 きっと、今日が最後だろうな。





*****





 雑誌には彼の誕生日のことが書いてあって。
 ああ、今年は土曜日なんだと思っていたら。
 ちょうどその日の夜、めちゃめちゃ偶然、彼を見かけた。

    Q.そろそろ、葉月君の誕生日ですよね。何かご予定は?
    A.・・・・・・さあ、仕事かもしれないし。空いたとしても、夜、知り合いとメシ食うぐらいで。

 葉月珪は、雑誌では絶対に見たことが無いような、すんごい極上な笑顔で待ち人を迎えて。
 同じ年くらいの女の子と肩を並べて歩いて行った。

 その女の子、なんとなく見覚えがあるような気がしてしばらく悩んでたんだけど。
 ―――ああああ!っと気が付いて、思わず街中なのにも構わず笑っちゃったよ。
 あたしからしてみれば、すんごい貴重な笑顔。あの子は、あたり前に見てるのかな。

 ・・・・・・そうだと、いいな。





 ―――尽くんとどこか似ている女の子。
 彼を人間にしたのは、アナタなんだね。



Fin





ゲーム中には登場しないオリジナルキャラの視点から、モデル葉月珪を。
彼、全然出てこない上に、尽くんが・・・・・・。何故?
こういうSSも異色でたまにはいいかと・・・・・・ダメですよね、すみませんー!

期間中、フリー提供させて頂いていた拙作(現在は終了しております)。
お持ち帰り下さった心優しい皆様、本当に有難うございました!